昼下がりのハロウィン
毎日毎日同じ時間――昼放課と放課後に訪れる、煩いその男は、例の如くまた勢い良く応接室の扉を開け、「trick or treat!」
と、扉と壁がぶつかり合う音と共に、お決まりの文句を叫んだ。
昼下がりのハロウィン
「何のつもり?」
ノックも無しに勝手に入ってくるのは何時もの事だが、今日は何故か、そう得意でも無いだろうに、英語を叫びつつ入って来た。
訝しげに尋ねた雲雀に、山本は何時もの明るい調子でどこか楽しげに答えた。
「え~?ヒバリ知らねぇの?"trick or treat"。今日はハロウィンだぜ~?」
許可をした訳でも無いのに勝手に入って来た男は、そのまま真っ直ぐ雲雀の真正面にあるソファに座った。
それについては既に諦めている。 このしぶとい男は、何度殴られようが蹴られようが、何度でも同じ事を繰り返すのだ。
暫くはその度に相手をしていた。だが、それも連日しかも何週間も続けられれば、流石の雲雀も折れざるを得なかったのだ。
「それ位、知ってるよ。僕が聞いているのはそんな事じゃなくて、何の心算で僕に対してその科白を言うのか、だよ。」
不機嫌そうに言い直してやれば、山本は納得したような顔をし、答えた。
「だって、ハロウィンなんだから、やっぱ言っとかないとダメだろ?」
答えになっていない山本の答えに雲雀は深い溜息を漏らした。
「君、僕に対してイタズラをする心算?そんな事をすればどうなるか、分かってるよね?」
僕がお菓子なんか持っていないのは分かってたでしょ。と、不敵な笑みを浮かべ言う雲雀に、山本は怯えるどころか楽しげに答えた。
「ん?ヒバリちゃんと飴持ってんじゃん。学ランの右ポッケ。」
軽く指を指して言う山本に、まさかと思いつつ、雲雀はポケットに指先を滑り込ませる。
すると、確かに甘そうなキャンディーが1つ、入っていたのだ。
勿論、雲雀がそんな物を持ち歩く筈が無い。
少し険しくした視線を山本に向ければ、存外あっさりと答えを吐いた。
「今朝、ヒバリ校門のトコで服装検査やってただろ?その時にポケットに入れて置いたんだ。」
気付かれない様にすんのに、すっげー緊張したんだぜ~?と、軽く答える山本に、内心ヒバリは舌打ちをした。
(こんな男に後れを取るなんて――!)
しかし、それを全く表面上には出さず、深く溜息を吐くだけで、気持ちを落ち着けた。
「で、君は僕がコレを渡せば、満足なのかい?」
軽くキャンディーを山本の方に放ってやれば、嬉しそうに、おぅ。と、それを難なくキャッチする。
幸い、山本は先程の雲雀の溜息を呆れた為に吐いたものだろうと取ったらしい。
何も不自然だとは感じていない様で、楽しげにキャンディーを口の中へと入れる。
と、そこでふと雲雀は仕返しを思いついた。
「じゃぁ、勿論僕がソレを言っても問題は無い訳だよね?」
不敵な笑みを浮かべて問えば、山本も直ぐに"ソレ"が何を示すかは気付いた様で。
それまで楽しそうに笑っていた表情が変わり、一気に凍る。
「trick or treat?」
「まっ、待った!確かポッケにまだ幾つか飴があったハズ!」
急に焦りだした山本に、
「君、まさか、飴なんかで僕が満足すると思ってる訳じゃないよね?」
そう言ってやれば、慌てて悩み始める山本に、
(さて、どんな"仕返し(イタズラ)"をしようか。)
と、笑顔を浮かべるも、どうやったら雲雀の満足するお菓子を用意できるかを考えるので頭がいっぱいな山本は、それに気が付かない。
(簡単には済ませてあげないからね――。)
そんな、少しだけ物騒な気配を孕んだ、昼下がりのハロウィン――。
ハロウィン企画、山ヒバver.です。
甘くもほのぼのでも無い気がしてきました…。スミマセン。
H19.11月末までフリー配布です。
報告は自由ですが、あれば管理人が泣いて喜びます!
では、お粗末さまでした。
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