ポケットの中で手を繋いで。
「・・・寒い。」学校帰り。1月の風はまだ冷たい。
(さっさと帰ろう・・・。)
雲雀が歩くペースを速めると、ちょうど後ろから、いくら殴られても諦めずしつこくつきまとってくるため覚えてしまった男の声がした。
「ヒバリー!ちょっと待てよー!」
立ち止まり、振り返ると、山本がバットを背負い、こちらに向かって走ってきた。
「よぉ!偶然こんなとこで会えるなんて、俺ってラッキー!」
語尾を弾ませながら話すその声は、全速力で走ってきたせいか、少し乱れている。
「ここで会ったのも何かの縁、一緒に帰ろうぜーっ!」
「誰が!」
雲雀は反射的に言い返すが、山本は全く聞いていなかった。どころか、
「うわっ!ヒバリ、手ぇ寒そっ!俺の手袋、片方貸してやるよ!」
と、雲雀の赤くなった手を見て言い出し、自分の手袋をはずすと、片方押し付けるように彼に渡した。
そうしないと受け取ってもらえない事を分かっていたからだ。
雲雀もちょうど寒いと思っていた所だったため、素直に受け取り、それをはめる。
山本はその様子を見てうれしそうに笑顔を浮かべると、
「じゃぁ、こっちの手は・・・。」
雲雀の手袋をしていない方の手をとると、いわゆる恋人つなぎにし、そのまま自分の上着のポケットに突っ込む。
「ちょっと!何するの!」
予想外の行動に思わず声を上げるが、山本は「まぁまぁ。」と宥める様に言い、歩き出す。
手を繋いでいるため、雲雀も半ば引っ張られるように歩く羽目になり、文句を言おうとしたが、山本の嬉しそうな顔を見て、怒る気が失せてしまった。
それでも、雲雀は、山本の好きなようにさせるのは癪だと思い、自分のペースで歩くことにした。
(少なくとも手は冷たくなくなったし、たまには良いか・・・。)
結局二人は、そのまま雲雀の家まで、歩き続けた。