Whimsically.

起き抜け騒動。

普段、学校をこよなく愛する風紀委員長は誰よりも早く登校する。

しかし。

何故か今日は。

「おはようございます、委員長。それにしても珍しいですね。既に1限目が始まっていますよ。」

草壁が、風紀委員の拠点たる応接室に入って来た雲雀に声を掛けると。

「……色々、あったんだよ…。」

と、雲雀は、非常に疲れた様子で、いつもの定位置に腰を下ろした。



起き抜け騒動。





――朝。

雲雀が目を覚まし、最初に目にするものは、大抵、自室の壁か天井だ。

しかし、

今日最初に目に入って来たのは、

「――っ?!」

ソレに対抗する為、反射的にいつでも身に着けているトンファーを取り出そうとしたのだが。

(腕が動かない?!)

その理由はと云えば、

雲雀は何故か、骸に強く抱き締められて、眠っていたのだ。

(何故こんな事態に?!)

しかも2人は、パジャマなどではなく、ボタンを幾つか外してはいるものの、制服のカッターシャツとズボンと云う出で立ちだったのだ。

取り敢えず、状況を把握する為に、頭の動く範囲で周りを見回してみる。

すると、其処は確かに雲雀の寝室で、骸と雲雀の学ランが並んでハンガーに引っかかっていた。

それ以外は特に普段と変わりは無い様に思われる。

……勿論、隣で骸が寝ていると云う事を除けばだが。

しかし、此処一番の問題は、

(………昨夕からの記憶が、無い。)

雲雀には、昨日の夕方に応接室で執務を行っていた処までしか記憶が無かったのだ。

これでは状況の把握をしようにも、どうすることも出来ない。

(…この男を起こして、聞き出すしか無いのか……。)

それは、なるべくなら、取りたくない手段だった。

しかも、この体勢だ。何をされようとも、抵抗する事が出来ない。

散々悩んだ末、雲雀がいざ実行に移そうとしたその時、

「…ん……?雲雀、君…?」

骸が、目を覚ました。

「!!」

雲雀が警戒を露わに骸の様子をうかがっていると、

「?…あぁ。おはようございます、雲雀君。そんなに警戒なさらなくても良いじゃないですか。」

骸は一瞬何故雲雀がそのような行動をみせるのか、疑問に思ったようだったが、自分達の状況を見て、直ぐに納得したらしかった。

しかし、雲雀を抱き締める腕の力は緩める事は無く、骸はいつも通りの笑顔で挨拶をした。

対して、

「……君を、信用出来る訳が無い。」

と、雲雀が不機嫌に睨み付けながら言うと、骸は如何にも心外だという顔を作り、

「僕が応接室に訪れた処、雲雀君がぐっすり眠っていらっしゃったので、家までお運びしたんじゃないですか。」

と、言ってのけた。

しかし、普通なら葉が落ちる音でも目を覚ますという雲雀が、骸が部屋に入って来たのに気が付かない訳が無い。

ましてや、こんな状況になっても目が覚めないなど、有り得なかった。

「……君、僕に睡眠薬か何か、飲ませたでしょ。」

雲雀が確信に近い疑いの目を向けるが、骸はそれをあっさりと否定した。

「先程も言った通り、僕が応接室に訪れた時には既に、雲雀君は眠っていらっしゃったんですよ?その僕がどうやって薬を盛る事が出来るんです?」

どうやら骸は白を切り通すつもりらしく、雲雀が何を言っても、のらりくらりと最早詰問に近い雲雀の質問を次々とかわしていった。

「……もう、良い。それより、早く放してよ。」

雲雀が諦めたように言うと、骸は存外あっさりと雲雀を解放した。

さっさと起き上がり、活動を始めた雲雀に、起き上がってはいるものの、未だベッドの上の骸は少し感心したようだった。

「君は意外と朝は得意なタイプの人間だったんですねぇ…。」

「……君、僕達が目を覚ましてから一体どれ位の時間が経ってると思ってるの。」

結局、2人は30分以上も実りの無い時間を過ごしてしまっていたのだ。

「……今日は朝から最悪だよ……。」

うなだれる雲雀に対して、骸は機嫌良く答えた。

「僕は計画通り、1つのベッドに2人で眠り、雲雀君の寝顔も見れたので、最高の朝になりましたよ。」

ビキッ

そんな効果音が聞こえてきそうな程、雲雀の周りの空気が凍った。

「……やっぱり、君が犯人か……っ!」

雲雀から、ゆらりと立ちのぼる殺気に、しかし骸は顔色ひとつ変えずに答えた。

「一度、雲雀君の寝顔が見てみたかったんですよね~。」

そして、雲雀の部屋は戦場と化した……。



――その約1時間後。

「……今日は完全に遅刻だよ……。」

心配した草壁からの電話で我を取り戻した雲雀は、結局骸とは決着が着かなかったものの、最早住めそうにない程破壊しつくされた部屋から、学校へと向かったのだった。

「後で草壁に新しい部屋を用意させよう……。」

そこには、朝からお疲れ気味の並中風紀委員長がおられました――。





END





――その後。


「あっれ~?骸さん何か今日はやけに機嫌良いびょん?」

「……雲雀恭弥だろう。」

「はぁ?なんでそこでアヒルが出て来るびょん?」

「……骸様は以前から、雲雀恭弥にも気付かれないような、無味無臭かつ強力な睡眠薬を、特注で作らせていたんだよ。」

「ん~~良く分かんねぇけど、その計画が成功したからあんなに機嫌良いびょん?」

「……おそらくは。」

「ふ~~ん。」





「草壁。」

「はっ。」

「この部屋にある飲食物全て新しい物に入れ替えて。」

「はっ?」

「それと、あの変態が簡単に入れない位セキュリティーの厳しいマンション、今日中に手配しておいて。」

「??はっ、分かりました。」

「…次に現れた時には必ず咬み殺す……。」