【 Blossomstorm 】
薄く色づいた花びらが舞う。美しきそれらはまるで雨のように、
或いは雪のように、
そして。
全てを、覆いつくすかのように。
【 Blossomstorm 】
誰かが何かを言った訳ではないけれど、パラパラと数人が同じ方向を向けば、それに気づいた誰かが何か在るのかとまたそちらへと目を向ける。
そうなってしまえば最早、つまらない話を延々と聞かされるだけの始業式に既にうんざりとしていた生徒達は、新しい担任の話など意識の外へと追い出し、皆一様に窓の外を見つめた。
元々、教師の話など右から左へと聞き流していただけだったのだが、クラスメイトの殆どがある1点に集まっていることに気付き、彼女もまたつられる様にして視線を移した。
そして思わぬ光景に、
言葉を失った。
2階の窓からは丁度満開の桜並木が臨める。
近年では地球温暖化の影響か、入学式の頃にはその木に花弁を残していなかった桜達が、今年は上手い具合に満開した状態を保ち、その下で入学式と始業式を執り行うことが出来た。
朝方には少しある、程度だった風が昼前になり、その強さを増し、更には三方を校舎とそれらを繋ぐ渡り廊下で囲まれたせいか吹き抜ける事が出来ず、その場で勢いだけはそのままに、渦巻いていた。
桜吹雪。
巻き上がる風に、踊るように舞う、数えきれないほどの花びら。
強風に煽られ、沢山の花びらが散ってゆく姿を目にしたことはあっても、視界を覆いつくすほどの量のそれは見たことが無かったと断言できるほど。
見事、と言うしかないその光景。
踊り狂う花弁は地に堕ちる事は無く舞い上がり、ふと地面すれすれまで落ちたかと思うと突然思い出だしたかのように一気に上り詰める。
篭った風が見せる乱舞。
その美しい光景に重ねるのは、ここには無い、漆黒。
闇に濡れたその人は桜に嫌な思い出でもあるのか、薄紅色がその視界に入ると、整ったその顔を顰め、すぐに顔を逸らしてしまう。
何年か前まではそのようなことも無く、寧ろ好んでさえいた気もしたが、それはただの思い違いだったのだろうか。
ふと気付けばその人の姿ばかり追いかけている自分に気付き、ひとり苦笑を漏らす。
幸い、周囲の人間は皆桜に心を奪われているようで、彼女の様子に気付いた者は居ない様だった。
生徒達につられて外を眺めていた教師が我を取り戻し、声を上げて再び彼らの注意を集めようとしていた。
また暫しの間、退屈な話に耳を傾け、配布物等を受け取れば、昼過ぎには帰宅の途に付くことができる。
しかし、何時まで経っても瞼の裏から漆黒が姿を消すことは無かった。
帰宅の途中、ふと空を見上げれば綺麗な蒼に気ままに浮く白い雲。
その間を縫う様にして走る、一本の飛行機雲。
それがどこに、向かう飛行機の跡なのかは分からなかったが、それでも彼の乗ったそれかもしれないと思えば、胸に込み上がるものがあった。
「……行ってらっしゃい。」
呟く様に零し。
「そして…。」
一度区切り、深く深呼吸をしてから、また続ける。
「…さようなら……。」
一筋の涙が頬を伝った。
夢主を想って渡伊に連れて行かなかった雲雀と、危険でも連れて行ってほしかった夢主の悲恋もの。
ギリギリまでは日本に居た雲雀もとうとう行ってしまった。
そんな時の夢主の心境がうまく書けていればと思います。
ギリギリまでは日本に居た雲雀もとうとう行ってしまった。
そんな時の夢主の心境がうまく書けていればと思います。