Whimsically.

目覚めのキス。








―――昼休みの校舎裏。
 早めにお昼を済ませた雲雀は、今日も今日とて、群れてる奴らを狩っていた。

 (食後の運動もしたし、応接室の戻って昼寝でもしようかな・・・。)

 雲雀は軽く腕を振り、トンファーに付いた血をとばし、それをいつもの定位置に仕舞うと、踵を返し、歩き出した。

* * *


―――昼休みの応接室。
 風紀委員長である雲雀のプライベートルームと化しているこの部屋に、気兼ねなく立ち入られる人物は、ほとんどいない。
 その限られた人物の中に入る彼女は、1人、ソファーに座ってくつろいでいた。
 雲雀の幼馴染みである、だ。

 (恭弥、どこに行ったんだろう。早く帰ってこないかなぁ・・・。)

 彼女は昼休みになってからずっと、昼食をとらず、ひたすらこの部屋の主を待っていた。
 が、さすがに1人で待っているのには限界が来たのだろう。唐突に

 「もう!せっかく一緒にお昼食べようと思って待ってたのに!遅すぎるよ!」

 と、雲雀が既に昼食を済ませている事を知らず、叫んだ。

 「恭弥のばかっ!先に食べちゃうんだから!」

 そう言って、目の前にある机に置いていた弁当箱を開けると、ものの10分ほどで食べ終わった。
 やけ食いに近いものがあったのだろう。脅威の速さだった。

 「ふぅ・・・。ご馳走様でしたっ!」

 空になった弁当箱を片付けると、そのまま横に倒れる。

 (この部屋、日当たりもよくて気持ちいー。毎日こんなとこに居られるなんて、恭弥がうらやましいな・・・・。)

 取り留めのない事ばかり考えているに、睡魔が襲ってくるまでに、そう時間はかからなかった。

 (おなかいっぱいになったからかな。・・・ねむい。そーいえば昨日、テレビ見てて寝るの遅くなったんだった・・・。)

 と、は、どんどん脳が眠る態勢になっていくのを感じた。

 (恭弥が帰ってくるまで少しうとうとするくらい、いいよね・・・。)

 「おやすみー・・・。」

 ・・・この応接室で熟睡できるのは、彼女くらいかもしれない・・・・・・。

* * *


 彼が廊下を歩いていると、それまで群れていた奴らがたちまち散っていく。
 そして、自然と彼が歩くための道ができるのだ。

 「委員長!」

 偶然そこにいた風紀委員会副委員長である草壁も、雲雀を見つけたとたん、姿勢を正す。

 (そうか。だからこの辺りはいつもより群れている奴らが少なかったのか。)

 風紀委員が居れば、その辺りは自然、群れが減る。
 好んで近寄るものが居ないためだ。

 (ちょうどいい。人払いをさせておくか。)

 思いつくと、草壁の前で足を止める。

 「昼休みの間、僕は昼寝をするから、応接室の周りで煩くさせないようにね。」
 「はいっ!」

 軽く見据えて命令し、また歩き出す。

 (これで邪魔されずに眠れる・・・。)

 そう思いながら、応接室のドアノブに手をかけようとしたとき、中に人の気配がある事に気付き、動きを止める。

 (誰がこの部屋に・・・?以前狩った奴らが仕返しにでも来たのか・・・?)

 しかし、中に居る人物から害意は感じられなかった。

 それでも警戒は残したまま、慎重にドアを開け、中を見渡す。
 すると、ソファーに女子生徒が眠っている姿が目に入った。

 彼女は、雲雀のよく知る相手だった。

 (・・・。なんでここに?)

 なんだか肩透かしをくらった気分で、とりあえず、ソファーの横まで行ってみると、机に空になった弁当箱があるのに気付いた。

 (・・・なるほど。一緒に昼を食べようと思って待ってたけど、待ちくたびれて先に食べたわけ。で、お腹が一杯になったら今度は眠くなった、と。)

 全てお見通しである。

 (明日からはを待っていてあげるか・・・。それにしても、草壁に人払いをさせておいたのは正解だったな。)

 しばらくその寝顔を見つめてから、風紀の仕事を取り出し、の寝ているソファーの、机をはさんだ反対側のそれに座り、仕事を片付け始める。

 (どうせまた、夜遅くまでテレビを見ていたんだろ。少し寝かせておいてあげるよ。)

 全てお見通し、である。

* * *


 ある程度風紀の仕事を終わらせ時計を見ると、次の授業が始まるまで、あと10分程だった。

 (もうそろそろ起こした方が良いかな・・・。)

 持っていた書類の束を机に置き、の寝ているソファーの横に回りこむ。

 「・・・。起きなよ・・・。?」

 軽くゆすってみても、起きない。

 溜め息をつくと、諦めて、ソファーの中ほどに浅く座る。
 少し考えた後、上半身が覆いかぶさるようにして、の顔の両側に肘をつく。

 そして、顔を近づけ。


 との距離を0(ゼロ)にする。


 そのまましばらく唇を合わせるだけのキスをして、顔を離す。
 しかし、まだ覆いかぶさる体勢は変わっていない。

 「・・・・・・・・・。」

 未だ目覚める気配は、ない。
 数秒間、その寝顔を見つめる。
 そして、再び溜め息をつくと。

 「もう、止まらなくなるよ・・・?」

 そう言って、そのまま唇を合わせると、今度は舌を使って器用に彼女の唇を割り、入り込む。

 そして、舌を絡み合わせれば。

 さすがのも、目を覚ました。

 「・・・ん?ん?! っ!ん~~~!!」

 目覚めたばかりで状況を飲み込めていないに、それでも雲雀は容赦しない。
 少しの抵抗を見せるを、軽く手首を掴んで押さえ込み、口内を蹂躙する。
 しばらくすると、が苦しそうに顔をゆがめる。酸素が足りていないのだろう。
 それに気付いた雲雀は、呼吸のタイミングを計り、唇を離す。

 「・・・っ はぁ、ん!」

 そして一呼吸置くと再びに口付ける。
 そのまま数分舌を絡み合わせてから、やっとを放し、上体を起こす。
 目覚めたばかりの激しいキスに、は肩で息をしている。それに対する雲雀は見事なもので、ほとんど息を乱していない。

 「・・・おはよう、。よく眠れた?」

 自分で起こしたくせに、気まぐれに問いかけてみる。
 対して、問われても、未だ息の整っていないは、答えられない。

 「・・・っ なん、で・・・・・・。」

 一言、言うだけでも言葉が途切れ途切れになる。

 「なんでキスしたかって事?が目を覚まさないからだよ。・・・キスする前に、ちゃんと起こしたんだよ?」

 だからって、こんな方法で起こす事はないじゃないかと思うに、おそらく非はないだろう。

 「あと少しで授業始まるから、もうそろそろ教室に戻った方がいいんじゃない?」

 それとも・・・と雲雀は不敵な笑みを浮かべて、こう続けた。

 「このまま、最後まで、する?」

 そういってネクタイに手をかける姿は妖艶で。
 は真っ赤になって立ち上がり、

 「教室に戻りますっ!!」

 と、そそくさと立ち去っていった。

 「残念。」

 部屋から出る直前に聞こえてきたその言葉に、はさらに顔を紅く染めると、足速に教室へと向かった。


 (なんか、恭弥、すごく愉しそうだった・・・!)

 確信犯、である。

End.




~あとがきっていうかコメント。~
最後の確信犯っていうのは、「残念。」っていうのを独り言っぽく言ってるけど、実はに聞かせるために言ったんだっていう事なんです!分かりづらくてごめんなさいっ!